Category Archives: コラム

重度の開咬(オープンバイト)症例の治療例

みなさんこんにちは、日本橋はやし矯正歯科 院長の林一夫です。

 

今回は「重度の開咬(オープンバイト)」の患者さまに対して、外科手術を行わず矯正治療のみで改善した症例をご紹介します。

 

患者さま情報

 

  • 患者さま:38歳女性
  • 主訴:前歯で咬めない、笑ったときに前歯が閉じない
  • 診断:口唇閉鎖不全※1、上下顎前歯の唇側傾斜※2、上下顎に中等度の「負のALD※3」を有する骨格性開咬症例

※1:いわゆるポカン口を指します

※2:いわゆる出っ歯を指します

※3:歯が並ぶための必要なスペースが不足していることを指します

 

 

治療前の状態

 

正面の口腔内写真では、前歯部の上下的な開き(開咬)が約10mmあり、通常の平均値(オーバーバイト:マイナス2〜3mm)と比べてかなり大きく開いている状態です。

 

右側の写真では、

  • 第一大臼歯のみが咬合しており、小臼歯〜前歯部は接触がない
  • 咬合の支点が後方に偏っている

という、典型的な開咬パターンが確認されました。

 

スマイル写真からも、舌を前方に押し出す「舌突出癖」が見られます。

この癖は治療期間の延長や後戻りのリスク要因となるため、患者さまにも十分に説明し、できるだけ癖をやめるように気にしながら生活するようにお伝えしました。

 

 

外科手術を行わず歯科矯正のみで治療を行いました

 

通常であれば外科手術を行うべき症例でしたが「外科手術を行わず矯正治療のみにしたい」との患者さまのご希望がありました。

そこで慎重に3Dデジタル矯正での精密検査及び診断を経て、私の経験上から、矯正のみでも可能であると判断いたしました。

 

しかしながら外科手術を行わない、矯正単独治療でのリスク(主に後戻り)がありますので、そこについてしっかりと説明をさせていただき、リスクを理解していただいたうえで治療を開始しました。

 

 

レントゲン所見

 

パノラマ写真では、上下顎右側に親知らず(智歯・8番)が確認されました。

この親知らずが開咬の原因の一部である可能性が高いため(親知らずが他の歯を圧迫した結果、開咬になっている可能性がある)、治療開始と同時に抜歯を行いました。

 

 

治療方針

 

  • 上顎両側第一小臼歯の抜歯
  • 上下顎右側第三大臼歯(智歯)の抜歯
  • 表側矯正(マルチブラケット装置)による治療
  • 舌突出癖の改善指導を併行

 

 

治療の流れ

 

  1. 精密検査(CBCT・セファロ・模型分析)
  2. 診断・治療方針の説明
  3. 上顎小臼歯抜歯+上顎装置装着
  4. 下顎装置装着
  5. 上下顎右側親知らずの抜歯
  6. レベリング・アラインメント
  7. 抜歯スペース閉鎖
  8. Up and Downエラスティックによる垂直的コントロール
  9. 最終調整

 

 

治療結果

 

正面の口腔内写真では、矯正治療のみで重度の開咬が改善され、前歯部の上下的な重なりも平均的なオーバーバイト(2〜3mm)へと回復しました。

 

右側の写真でも、前歯部の唇側傾斜(出っ歯)の改善と安定した咬合関係が得られています。

また、前歯部の後退により口唇閉鎖不全も解消され、自然な口元となりました。

 

スマイル写真からも、治療後はより自然で調和の取れた笑顔を獲得でき、患者さまにも大変満足していただけました。

 

治療期間はおよそ2年で、術後のパノラマ写真では、歯根吸収もなく、良好な位置関係で歯列が安定しています。

 

 

まとめ

 

  • 診断:骨格性開咬、上下顎前歯唇側傾斜、口唇閉鎖不全
  • 治療方針:上顎両側第一小臼歯+右側智歯抜歯/表側矯正
  • リスク:歯根吸収、舌突出癖による治療期間延長、ブラックトライアングル
  • 治療期間:約2年
  • 治療費:1,100,000円(税込、精密検査料含む/2023年当時)

 

よくある質問(FAQ)

 

今回の症例に関連したよくある質問をおまとめしました。

 

Q:開咬の治療には抜歯が必要ですか?

A:矯正単独で改善を目指す場合、抜歯によるスペース確保が必要になることが多いです。また、抜歯を行った治療の方が、術後の安定性が高い傾向にあります。

Q:舌突出癖はなぜ矯正に悪い影響を与えるのですか?

A:舌が前方に押し出されると、前歯を後退させる力と拮抗してしまい、治療期間の延長や後戻りを引き起こすリスクが高まります。

そのため、舌の位置や癖のコントロールも治療成功の大切な要素になります。

 

 

院長コメント

 

重度の骨格性開咬でも、適切な診断と計画により矯正単独で改善できる場合があります。

骨格や癖の影響を正確に分析し、3D診断を活用して治療を進めることが大切です。


日本橋はやし矯正歯科では横顔シミュレーションを含むカウンセリング(税込3,000円)を行っております。

カウンセリング後に矯正治療のご契約をいただいた方にはカウンセリング料金をキャッシュバックしております。

お気軽にご連絡ください。

第4回 日本デジタル矯正歯科学会・学術大会レポート

こんにちは。日本橋はやし矯正歯科 院長の林一夫です。

今回は、先日開催された「日本デジタル矯正歯科学会・学術大会」の様子をレポートいたします。

 

開催概要

 

2025年9月14日(日)、第4回日本デジタル矯正歯科学会・学術大会が、東京科学大学にて開催されました。

 

本大会は韓国デジタル矯正歯科学会との共催で行われ、韓国からも多くの著名な先生方が来日し、最新の知見を共有する貴重な機会となりました。

 

学会の歩みと意義

 

私は本学会の設立時から理事として関わり、現在は副理事長を務めております。第4回の開催を迎え、学会としての成長と広がりを強く実感しました。

 

15年以上前から複数のデジタルプラットフォームを日本に導入し、セミナーや臨床研究を重ねてきましたが、やはり「一般社団法人」として学会を正式に立ち上げ、公的な学術大会を継続的に開催できることは大きな意義があります。

 

多くの先生方の協力のもと、デジタル矯正の発展に寄与できる取り組みとなってきました。

 

 

今回のテーマと内容

近年、矯正歯科界では「生成AIの活用」が注目されていますが、その根底を支えるのは、やはり基礎的なデジタル技術の進歩です。

 

今回の学術大会でも、CBCT解析、3Dシミュレーション、AI設計支援など、デジタル矯正の臨床応用に関する多くの先端的トピックが紹介され、非常に有意義な内容でした。

 

講演は10名の先生方にご登壇いただき、私はそのうち1セッションで座長を務めさせていただきました。

質疑応答も活発で、臨床家同士が率直に議論できる大変充実した時間となりました。

 

商社展示と企業参加

 

学術大会には17社以上の企業が出展し、デジタル機器・ソフトウェア・治療補助ツールなどの最新技術を展示しました。

 

企業展示は、臨床家とメーカーの橋渡しとして非常に重要であり、実際の現場で役立つアイデアが多く得られました。

 

 

学会の様子(写真紹介)

 

前夜祭の集合写真

 

講師の先生方をお招きし、交流を深める食事会を行いました。久しぶりにお会いする先生も多く、有意義な時間となりました。

 

 

講演後の質疑応答の様子

 

多くの質問が寄せられ、臨床現場に直結するディスカッションが行われました。

 

 

私も質疑応答にお答えいたしました。

 

 

座長としての進行風景

 

質問をまとめ、演者の先生方の考えを引き出しながら、会場全体の理解が深まるよう努めました。

 

 

感謝状の授与式

 

ご講演いただいた全ての先生方へ、学会から感謝状をお渡ししました。

 

 

閉会後の集合写真

 

充実した1日の締めくくりとして、関係者全員で記念撮影を行いました。

 

 

 

まとめ

 

1日の開催でしたが、内容は非常に濃く、実りある学術大会となりました。

 

疲労感よりも、デジタル矯正の進化を肌で感じられた“達成感”の方が大きく、この分野のさらなる発展に向けて、今後も臨床・教育・研究のすべてで貢献していきたいと感じています。

 

 

日本デジタル矯正歯科学会について

 

日本デジタル矯正歯科学会(JDOS: Japan digital orthodontic society)は、歯科矯正治療に関する学術研究と普及を目的とする一般社団法人です。

 

本学会は、デジタルソリューションを用いてデジタル矯正治療に関する学術、及び研究発表することで会員相互並びに国内外との連携協力団体との交流を深め、国民に対して安全、良質なデジタル矯正歯科医療の普及を図り、国民の健康増進及び福祉の向上に貢献することを目的としています。

 

日本デジタル矯正歯科学会(JDOS)公式サイト:https://j-dos.org/

【論文概要】歯はどんなふうに動いているの? ― 3Dで解き明かした矯正の科学 ―

日本橋はやし矯正歯科院長 林一夫です。

今回は私が発表した論文(Journal of Biomechanics 掲載論文)より3Dデジタル矯正に関するものをご紹介します。

 

 

この研究の目的

 

今回の研究は「矯正治療で歯がどのように動いているのか」を、三次元的に正確にとらえる方法を開発することが目的でした。

従来の歯科矯正学では、歯の移動はレントゲンの二次元的な平面上でしか評価できず、「実際にどの方向へ、どの角度で動いているのか?」を定量的に把握することは困難でした。

そこで私は、「有限ねじれ軸(Finite Helical Axis)」という物理学的な考え方を応用し、
歯の動きを3D空間内で正確に計測・可視化できるシステムを確立しました。

 

 

どんな方法で解析したのか

 

この研究では、3Dスキャナーを用いて治療中の歯列模型を高精度にデジタル化し、各歯の位置を三次元的に比較しました。
具体的なステップは次の通りです。

  1. スリットレーザーを用いた3Dスキャニングで歯列模型を測定
  2. 上顎第一大臼歯を基準点として自動的に位置合わせ
  3. 各歯の移動を「回転行列」と「並進ベクトル」で算出
  4. 「有限ねじれ軸(Finite Helical Axis)」を導き、その軸まわりの回転と軸に沿った移動として歯の動きを表現
  5. 得られた結果を三次元のベクトルとして可視化

 

モデル症例

 

22歳男性(アングルⅢ級不正咬合、前歯部中等度叢生)を対象とし、マルチブラケット装置を用いた治療を実施。

印象採得※は、

  1. 装置装着前
  2. 装着直後
  3. 10日後
  4. 1か月後
  5. 2か月後

の5時点で行い、歯の移動軌跡を比較しました。

 

※「印象採得(いんしょうさいとく)」とは、歯や歯列、お口の中の正確な型を取る(型採りする)ことを指します。
今回の印象採得はシリコーン印象材を用い非常に高精度の歯列模型を作製しています。

 

 

結果と意義

 

この3D解析法により、歯の動きを単なる位置の変化ではなく、「回転」と「並進」として明確に表現できました。

例えば、ある歯が「どの方向に」「どれくらい回転しながら」「どれだけ動いたか」を視覚的に理解できるようになり、これまで「感覚」に頼っていた歯科治療の世界を、「感覚ではなく定量的な科学」に近づける一歩となりました。

 

この成果は、国際的な学術誌 Journal of Biomechanicsに掲載されました。

矯正分野の論文としては非常に稀なケースであり、またこの分野の研究を行っている医師・歯科医師の業績が同誌に採択された例はごくわずかです。

 

 

今の臨床への応用

 

この研究で確立した3D的な歯の動きの表現や理解のしかたは、現在の「デジタル矯正(SureSmile/3Dシミュレーション)」にも直結しています。

 

例えば、当院で導入している

  • CBCTによる骨格評価
  • 3Dスキャンによる歯列データ
  • シュアスマイルによるバーチャル治療設計

これらの技術の根底には、「歯の動きを3D空間で正確に捉える」という、この研究の考え方が生きています。

 

 

論文情報

 

Title: A novel method for the three-dimensional (3-D) analysis of orthodontic tooth movement -Calculation of rotation about and translation along finite helical axis.

Author: Hayashi K, et al.

Journal: Journal of Biomechanics 2002 Jan;35(1):45-51. DOI: 10.1016/s0021-9290(01)00166-x

 

論文URL

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11747882/

 

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S002192900100166X?via%3Dihub

 

 

まとめ

 

  • 歯の動きを三次元で解析する世界初の手法を開発
  • 有限ねじれ軸(Finite Helical Axis)を応用して、歯の回転と並進を定量化
  • 国際誌 Journal of Biomechanics に掲載
  • 現在のデジタル矯正技術の基盤に応用されている

 

 

院長からのコメントー感覚の技術から科学的に再現できる医療へー

 

この研究を通じて、矯正治療は“感覚の技術”から“科学的に再現できる医療”へ進化しました。今後も臨床の現場に、研究で得た知見を還元していきたいと思います。

口ゴボ、口唇閉鎖不全、出っ歯、八重歯、梅干しジワの矯正治療例

みなさんこんにちは、日本橋はやし矯正歯科院長の林一夫です。
今回は抜歯矯正を行った口ゴボ治療の治療例を紹介させていただきます。

 

 

口ゴボってどんな状態?

 

口ゴボとは、前歯が出ているため、特に横顔で口元全体が「ゴボ」っと突き出たような状態になっていることを指す一般的な言葉です。

医療用語ではなく俗称ですが、みなさまに伝わりやすいのでコラムではこの「口ゴボ」という言葉を用いています。

 

 

口ゴボの確かめ方は?

 

口ゴボを確かめるには「Eライン」を基準にします。

Eラインとは「エステティックライン(Esthetic Line)」の略で、鼻先と顎先を結んだ線を指し、この線に唇が触れるか少し内側におさまっているのが美しいEラインであるとされています。

そしてこのEラインよりも外側に出てしまっている状態を「口ゴボ」といいます。

 

Eラインよりかなり出ている状態を一般的には指しますが、個人の感じ方によるものなので、出ているのが少しだけでもとても気にされる方もいらっしゃいます。

 

 

口ゴボの治療例

 

それでは口ゴボの矯正治療例をご紹介します。

 

まず、こちらは治療前の横顔の写真です。

先にご説明した、いわゆる口ゴボと言われる上下の口唇が前方に突出した状態です。

Eラインの線を引いてみましたのでご覧ください。

特に下顎の口唇が前方に突出してることがお分かりいただけると思います。

 

また軽度の口唇閉鎖不全も認められ、オトガイ部が筋緊張でくぼんでいることがお分かりなると思います。

 

こちらはスマイルの写真です。上顎前歯の重度の唇側傾斜(いわゆる出っ歯です)により中切歯が大きく感じられ、審美的に問題が生じています。

 

次に正面の口腔内写真をご紹介します。

 

いわゆる八重歯(犬歯の低位唇側転位)が認められ、側切歯と言われる前から2番目の歯も不正な位置に萌出しています。

 

右側からの口腔内写真です。上下顎の前歯が著しく前方に傾斜していることがお分かりいただけると思います。

 

パノラマレントゲン写真です。

上下左右の親知らずの埋伏が認められます。

矯正治療中にタイミングを見てすべて抜去する予定です。

 

※親知らずの抜歯は保険適用になるので大学病院を紹介させていただき、抜歯を行うことが多いです。

 

 

診断結果と治療方針、治療の流れについて

 

どんな診断結果、そしてどんな装置と抜歯方法で治したのか

 

診断結果と装置、抜歯方法は以下となりました。

  • 診断:口唇閉鎖不全、上下顎前歯の唇側傾斜、上顎両側犬歯の低位唇側転位、上下顎に重度の叢生が認められる骨格性Ⅱ級症例
  • 治療方針:上顎両側第一小臼歯、下顎両側第二小臼歯の抜歯、ハーフリンガル矯正(上顎裏側・下顎表側)により治療を行った

 

どんな治療の流れだったのか

 

以下の流れで治療を行いました。

  1. まず精密検査を行います。(CBCT・セファロ・模型分析)
  2. 次に診断・治療方針の説明をします。
  3. 上顎小臼歯の抜歯と上顎の装置装着を行います。(裏側)
  4. 下顎小臼歯の抜歯と下顎の装置装着を行います。(表側)
  5. レベリング・アラインメントを行います。
    (レベリング・アライメントとは、矯正治療において歯の傾きや前後左右の位置を整えることを指します)
  6. 抜歯スペースの閉鎖をします。
  7. 最終調整をして、治療が終了となります。

 

 

治療後のお写真をご紹介します

 

治療終了時の横顔の顔面写真です。

口ゴボはどのくらい改善された?

 

治療後の口ゴボは、美しいEラインを獲得できるほどに改善し、理想的な横顔となりました。

また口唇閉鎖不全も解消されたことでオトガイの形態も良く改善されています。

 

スマイル写真です。とても自然な理想的なスマイルを獲得できました。

 

口ゴボが治って笑顔になれました

 

治療前は「口ゴボだから、笑うと口元が気になる」とお話されていましたが、治療後は「口ゴボが治って自然に笑えるようになった」と笑顔でおっしゃっていました。

患者さまも大変満足されていらっしゃいました。

 

口腔内の写真です。まずは正面です。

 

八重歯、個々の歯の位置異常が適切に整えられていることがお分かりいただけると思います。

 

右側です。上下顎前歯の唇側傾斜が改善され理想的な歯軸傾斜と上下的なかみ合わせを獲得することができました。

 

 

親知らずの抜歯はなぜ必要だった?

 

親知らずを抜歯した理由は、矯正治療後の安定性にあります。

矯正治療後に、歯の凸凹などの後戻りの防止予防のために親知らずの抜歯はとても重要で、抜歯することで術後の咬合の安定が高まります。

パノラマレントゲン写真です。親知らずは、4本とも抜歯されています。

 

 

今回の口ゴボの矯正治療のまとめです

 

口ゴボのハーフリンガル矯正(上顎裏側・下顎表側)による矯正治療のまとめです。

  • 診断:口唇閉鎖不全、上下顎前歯の唇側傾斜、上顎両側犬歯の低位唇側転位、上下顎に重度の叢生が認められる骨格性Ⅱ級症例
  • 治療方針:上顎両側第一小臼歯、下顎両側第二小臼歯の抜歯、ハーフリンガル矯正(上顎裏側・下顎表側)による治療
  • リスク:歯肉退縮、ブラックトライアングル、歯根吸収
  • 治療期間:3年
  • 治療費:125万円(税込み、精密検査料含む/2022年当時の治療費)

 

 

口ゴボを治すためのよくある質問です

 

口ゴボにお悩みの方からよく聞かれる質問に答えました。

 

Q:口ゴボを改善するには抜歯が必要ですか?

 

A:口ゴボの突出の程度や骨格によりますが、歯の位置だけでなく顎骨全体のバランスを整えるため、抜歯を行うことでより自然な横顔を得られるケースが多いです。

 

Q:口ゴボを改善するには親知らずを抜かないとだめですか?

 

A:口ゴボの矯正治療後の後戻りを防ぐため、また術後の咬合の安定を図るために、矯正治療終了時に親知らずが残っている場合は抜歯をおすすめすることが多いです。


口ゴボでお悩みの方はぜひ日本橋はやし矯正歯科にご相談ください。CBCT・セファロを用いた精度の高いカウンセリングを行います(3,000円/税込)。

 

カウンセリング後に精密検査をご予約いただいた方には、カウンセリング料金をキャッシュバックさせていただいております(カウンセリング料金が実質無料になります)。

 

 

【論文概要】江戸時代と現代日本人女性の顔立ちの違い ― 歴史・研究・矯正歯科の視点から ―

(このコラムは林院長の論文をスタッフがまとめています)

 

日本橋はやし矯正歯科の院長 林一夫は、大学教授時代から矯正歯科分野において数多くの学術的業績を残してきました。

特に3次元画像解析や3Dデジタル矯正に関する研究では国内外で高い評価を受けており、これまでに100本を超える論文を発表しています。

 

臨床現場に直結する基礎研究から、最新のデジタル技術を応用した治療法の開発まで、多角的な視点から矯正治療の発展に貢献してまいりました。

現在も学術的知見を臨床に還元し、「患者さま一人ひとりに安心と納得を与える治療」を実践しています。

今回ご紹介する論文は江戸時代の女性と現代女性の頭蓋骨を比較し、時代背景と顔立ちの関係を明らかにしたユニークな研究であり、矯正歯科の視点からも非常に示唆に富む内容だと思います。

 

 

Morphological analysis of the skeletal remains of Japanese females from the Ikenohata-Shichikencho site. European Journal of Orthodontics. Hayashi K, Saitoh S, Mizoguchi I

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21745827/

 

https://academic.oup.com/ejo/article-abstract/34/5/575/549497?redirectedFrom=fulltext&login=false

 

 

古代人骨の発見と研究について

 

日本では近年、建設工事などをきっかけに多数の古代人骨が発見されています。

これらの遺跡の多くは、地方の大学や博物館に所属する研究者や公的機関の調査によって確認されています。

遺跡から人骨がそのままの状態で出土すると、重要な情報が得られます。しかし、多くの研究結果は調査委員会の報告書のみに掲載されることが多く、広く一般に共有されることは稀です。

 

 

江戸時代の遺跡から出土する古代人骨

 

江戸時代(1603年〜1867年)は、徳川幕府が日本を統治していた時代です。

将軍は世襲の最高司令官であり、天皇が形式上の国家元首であったものの、実質的な権力は将軍に集中していました。

したがって、1867年の封建制廃止まで、将軍が日本の実際の支配者とみなされていました。

江戸時代の社会は身分制度が厳格に分かれており、最上位は武士、その下に農民、職人、商人が続き、さらにその下には被差別民層(えた・非人)が存在しました。

当時の首都であった江戸(現在の東京)は、人口約100万人を抱える大都市でした。東京の都市部にある江戸時代の遺跡からは、数千体に及ぶ人骨が出土しています。

 

これまでの研究では、江戸時代の人骨を系統発生学的、病理学的、人口学的に分析してきました。

本研究のような形態学的分析は、当時の人々の体格や形態を明らかにするだけでなく、江戸時代の日本人の形態的な傾向や、現代日本人における形態的多様性の理解にもつながります。

 

※なお、江戸時代では上流階級と庶民では口元の骨格に違いがあることがわかっています。
これは、上流階級ではしっかり調理され柔らかくなった食べ物を食べていたのに対し、庶民はご飯にめざしやたくあんといった質素かつ硬いものを食べていたからだろうと言われています。

 

 

1.なぜ江戸時代と現代を比較するのか

 

私たちの「顔立ち」や「歯並び」は、生まれつきの遺伝だけでなく、食生活や社会環境といった時代背景 に大きな影響を受けています。

今回紹介する研究では、東京都台東区の池之端七軒町遺跡から発掘された江戸時代の女性頭蓋骨を用い、現代日本人女性の頭蓋と比較しました。

これにより「時代による顎顔面形態の違い」が科学的に明らかになったのです。

 

 

2.江戸時代女性の社会的背景

 

江戸時代の女性は現代に比べて非常に厳しい環境で生きていました。

  • 平均寿命は30歳前後。感染症や出産に伴うリスクで短命であった
  • 食生活は硬い食材中心。保存食や繊維質の多い食品を噛む機会が多く、顎への負担が大きかったと考えられる
  • 社会制度の制約。女性は家父長制の中で生き、自由な選択肢は限られていた
  • 女児の間引き。男子を優先する価値観から、出生直後の女児が育児放棄された例も多く、人口構成に影響していた

こうした背景を踏まえたうえで、江戸時代女性の「顔立ちの特徴」を見る必要があります。

 

図は江戸時代人の頭蓋骨のセファロ写真と今回の研究で評価した計測項目を示しています。

細かな内容は割愛しますが、一般的な項目で評価しています。

 

3. 研究方法

 

この研究では、江戸時代女性30体と現代女性40名を対象に比較が行われました。

  • 対象サンプル
    江戸時代:池之端七軒町遺跡から発掘された女性頭蓋骨(上下顎中切歯・第一大臼歯が残存)※国立科学博物館所蔵
    現代:北海道医療大学矯正科を受診した女性
  • 分析方法
    2次元形態計測(Geometric Morphometrics)を使用
    頭蓋の基準点を設定し、上下顎の位置・歯の傾斜・頭蓋形態を比較

 

 

4. 江戸時代女性の顔立ちの特徴(研究結果)

 

分析の結果、江戸時代女性には以下の特徴が確認されました。

  • 上下顎が前方に突出(いわゆる口ゴボ傾向だが現代の傾向とは異なる)
  • 咬合平面が平ら(噛み合わせの角度が少ない)
  • 頭蓋の長さが大きい(S-N距離が長い:現代人と比較して長頭)

つまり、横から見たときに「口元が全体的に出ている」顔立ちだったのです。

 

 

5. 現代女性の顔立ちの特徴

 

一方で、現代日本人女性では次のような特徴がみられました。

  • 鼻の付け根(前鼻棘)がやや突出
  • 歯列は江戸時代ほど前に出ていない
  • 食生活の変化による顎の発達の違い

柔らかい食事や栄養状態の改善により、顎の形態や顔立ちが変化してきたことがうかがえます。

 

 

6. 考察 ― なぜ違いが生まれたのか

 

これらの差異は単なる偶然ではなく、食生活・栄養状態・社会的環境・遺伝 が複雑に関与していると考えられます。

  • 食生活の違い
    硬い食事が顎の成長を促し、江戸時代の女性は上下顎骨が前に出やすかった?
  • 寿命の短さ
    若くして亡くなることが多く、年齢的な成長差が残りやすい。
  • 社会的制約
    女性の生活習慣は現代よりもはるかに過酷で、成長や健康に影響を及ぼした。
  • サンプルの偏り
    現代群は矯正治療を希望した女性が対象であるため、平均的な日本人女性とは少し異なる可能性がある。

 

 

7. 矯正歯科にどうつながるのか

 

この研究は「顔立ちは時代によって変化する」という事実を科学的に示しました。

矯正歯科では、患者さま一人ひとりの「今の骨格」「将来の横顔」を精密に分析することが重要です。

当院では、

  • CBCTによる3D画像
  • セファロ分析による骨格評価
  • 横顔シミュレーション

を組み合わせ、矯正治療の効果を「未来の横顔」として可視化します。

歴史研究で得られた知見を、現代の臨床にも応用しているのです。

 

 

まとめ

 

江戸時代と現代日本人女性の顔立ちは大きく異なり、食生活や社会環境がその差を生み出しました。

  • 江戸女性:口元が前に出ている、寿命が短く過酷な環境
  • 現代女性:食生活の変化で顎形態が変わり、横顔の印象も異なる(短頭傾向)

 

矯正歯科は「時代背景に左右される顔立ち」を科学的に分析し、理想の横顔を実現するための学問です。

ご自身の横顔に関心がある方は、ぜひカウンセリングで未来のシミュレーションをご体験ください。

 

 

参考文献(サイト)

 

池之端七間町遺跡について
https://www.city.taito.lg.jp/gakushu/shogaigakushu/shakaikyoiku/bunkazai/taitoukuiseki/taitoukunoiseki/ikenohata7kentyou.html

国立科学博物館(標本コレクション)
https://www.kahaku.go.jp/research/db/anthropology/osteology/edo/k28/