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【論文概要】歯はどんなふうに動いているの? ― 3Dで解き明かした矯正の科学 ―

2025/10/22 01:39:16

日本橋はやし矯正歯科 院長 林 一夫

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日本橋はやし矯正歯科院長 林一夫です。

今回は私が発表した論文(Journal of Biomechanics 掲載論文)より3Dデジタル矯正に関するものをご紹介します。

 

 

この研究の目的

 

今回の研究は「矯正治療で歯がどのように動いているのか」を、三次元的に正確にとらえる方法を開発することが目的でした。

従来の歯科矯正学では、歯の移動はレントゲンの二次元的な平面上でしか評価できず、「実際にどの方向へ、どの角度で動いているのか?」を定量的に把握することは困難でした。

そこで私は、「有限ねじれ軸(Finite Helical Axis)」という物理学的な考え方を応用し、
歯の動きを3D空間内で正確に計測・可視化できるシステムを確立しました。

 

 

どんな方法で解析したのか

 

この研究では、3Dスキャナーを用いて治療中の歯列模型を高精度にデジタル化し、各歯の位置を三次元的に比較しました。
具体的なステップは次の通りです。

  1. スリットレーザーを用いた3Dスキャニングで歯列模型を測定
  2. 上顎第一大臼歯を基準点として自動的に位置合わせ
  3. 各歯の移動を「回転行列」と「並進ベクトル」で算出
  4. 「有限ねじれ軸(Finite Helical Axis)」を導き、その軸まわりの回転と軸に沿った移動として歯の動きを表現
  5. 得られた結果を三次元のベクトルとして可視化

 

モデル症例

 

22歳男性(アングルⅢ級不正咬合、前歯部中等度叢生)を対象とし、マルチブラケット装置を用いた治療を実施。

印象採得※は、

  1. 装置装着前
  2. 装着直後
  3. 10日後
  4. 1か月後
  5. 2か月後

の5時点で行い、歯の移動軌跡を比較しました。

 

※「印象採得(いんしょうさいとく)」とは、歯や歯列、お口の中の正確な型を取る(型採りする)ことを指します。
今回の印象採得はシリコーン印象材を用い非常に高精度の歯列模型を作製しています。

 

 

結果と意義

 

この3D解析法により、歯の動きを単なる位置の変化ではなく、「回転」と「並進」として明確に表現できました。

例えば、ある歯が「どの方向に」「どれくらい回転しながら」「どれだけ動いたか」を視覚的に理解できるようになり、これまで「感覚」に頼っていた歯科治療の世界を、「感覚ではなく定量的な科学」に近づける一歩となりました。

 

この成果は、国際的な学術誌 Journal of Biomechanicsに掲載されました。

矯正分野の論文としては非常に稀なケースであり、またこの分野の研究を行っている医師・歯科医師の業績が同誌に採択された例はごくわずかです。

 

 

今の臨床への応用

 

この研究で確立した3D的な歯の動きの表現や理解のしかたは、現在の「デジタル矯正(SureSmile/3Dシミュレーション)」にも直結しています。

 

例えば、当院で導入している

  • CBCTによる骨格評価
  • 3Dスキャンによる歯列データ
  • シュアスマイルによるバーチャル治療設計

これらの技術の根底には、「歯の動きを3D空間で正確に捉える」という、この研究の考え方が生きています。

 

 

論文情報

 

Title: A novel method for the three-dimensional (3-D) analysis of orthodontic tooth movement -Calculation of rotation about and translation along finite helical axis.

Author: Hayashi K, et al.

Journal: Journal of Biomechanics 2002 Jan;35(1):45-51. DOI: 10.1016/s0021-9290(01)00166-x

 

論文URL

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11747882/

 

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S002192900100166X?via%3Dihub

 

 

まとめ

 

  • 歯の動きを三次元で解析する世界初の手法を開発
  • 有限ねじれ軸(Finite Helical Axis)を応用して、歯の回転と並進を定量化
  • 国際誌 Journal of Biomechanics に掲載
  • 現在のデジタル矯正技術の基盤に応用されている

 

 

院長からのコメントー感覚の技術から科学的に再現できる医療へー

 

この研究を通じて、矯正治療は“感覚の技術”から“科学的に再現できる医療”へ進化しました。今後も臨床の現場に、研究で得た知見を還元していきたいと思います。

日本橋はやし矯正歯科 院長 林 一夫

資格ドクターの紹介はこちら

・日本矯正歯科学会認定医
・日本矯正歯科学会指導医
・日本顎関節学会専門医
・日本顎関節学会指導医
・デンツプライシロナ公認 SureSmile/Adance/Orhto/Aligner ファカルティ・ドクター/インストラクター・ドクター

経歴

1995年 北海道医療大学歯学部卒業
1999年 北海道医療大学大学院歯学研究科歯学専攻博士課程修了・学位取得
1999年 海道医療大学歯学部矯正歯科学講座 助手
2003年 アメリカ・ミネソタ大学歯学部口腔科学科 客員研究員
2006年 北海道医療大学歯学部矯正歯科学講座 講師
2007年 北海道医療大学歯学部口腔構造・機能発育学系歯科矯正学分野 講師
2007年 北海道矯正歯科学会 理事
2008年 アメリカ・ノースカロライナ大学歯学部矯正科 客員教授
2008年 北海道医療大学歯学部口腔構造・機能発育学系歯科矯正学分野 准教授
2011年 Digital Orthodontics 研究会 副会長
2015年 日本橋はやし矯正歯科 開院
2018年 K Braces矯正歯科原宿駅前 総院長就任
2021年 日本デジタル矯正歯科学会 副会長就任
2002年 11月 日本矯正歯科学会認定医(第2293号)
2007年 8月 日本矯正歯科学会指導医(第608号)
2013年 5月 日本顎関節学会専門医(第343号)
2013年 5月 日本顎関節学会指導医(第208号)

治療内容について