みなさんこんにちは。日本橋はやし矯正歯科 院長の林 一夫です。
今回は部分的な矯正治療、特にソーシャル6(social 6)とよばれる上あごの前歯6本の矯正治療についてお話したいと思います。
ソーシャル・スマイル、social 6とは
▼この写真の違いが分かりますか?
左から右に向かって、以下の状態です。
- 安静にしている状態
- 笑顔の最初の段階:ソーシャル・スマイルと呼ばれます
- 笑顔の第二段階で大きく笑っています
中央の「にっこり笑った状態」は社交の場で最も多く見られる笑顔なので「ソーシャル・スマイル」、そしてその時にはっきりと見える前歯6本が「social 6」と呼ばれています。
このソーシャル・スマイルを美しく改善したいとの想いから、矯正治療を受けられる患者様が多く来院されます。
「social 6」の矯正治療、日本人は難しい
患者様は、この「気なっている前歯のみを治療することは可能なのか?」という疑問を持っています。
そして歯科医師の中には「前歯のみの矯正治療は簡単で、矯正治療の専門知識なしに行うことができる」と考えている場合が多いと思います。
もちろん、ちょっとした前歯の捻じれや少しの隙間を治す、それだけなら治療できる場合もありますが、そううまく行くケースは実は非常に少ないのです。
欧米人の場合は日本人と比較して歯の凸凹が少ないので、比較的難易度の低い治療で改善できることが多いですが、日本人は歯の凸凹が多いので、この前歯6本(social 6)のみ治療ではとても困難な場合があります。
私は、前歯6本のみの矯正治療を決して否定しているわけではありませんし、患者様が前歯のみの治療を希望され、結果に満足されるのであれば、積極的に行っています。
すべての矯正治療で言えることだとは思いますが、矯正治療の治療目標は
- 患者様がどの程度の歯並びで満足することができるのか
- 決して“矯正医目線からの完璧な歯並び”を目指すのではなく、どこにお互いが妥協できる目標を設定するのか
ということだと考えます。そして前歯6本のみの治療はこういった点で、多くの状況で妥協が必要になることが多いです。
soclal 6の治療を希望された実例
▼この患者様は、上顎の前歯のみの治療を希望され来院されました。
▼まず、前歯6本をそのまま並べたときのシミュレーション結果です。
赤い矢印の部分を見ていただくとお分かりなるように、ただ並べただけでは出っ歯になってしまいます。
▼これを受けて、前歯の幅を小さくする処置(IPR:Inter Proximal Reduction)を行った場合のシミュレーションを行いました。
出っ歯にならないようにIPRを行った結果、確かに出っ歯はかなり矯正されます。
ところがこれで、歯を削る量が1.0mmよりも多くなる部分ができてしまうことがわかりました。
※赤枠の部分が歯を削る量を示しています。
これだけの量のエナメル質を削ってしまうと、その内側の象牙質が露出し、知覚過敏などの症状が出てしまいます。矯正の結果、歯の健康を損ねるようなことがあってはなりません。
▼そこで、前歯だけの治療ではなく、上顎全体の部分矯正による治療を想定し、シミュレーションを行いました。
IPRを行う歯の数が増えたことによって、
- 歯を削る量をそれぞれ半分以下にできる
- 象牙質が露出するリスクが小さくなる
- また出っ歯にならないような治療をおこなえる
ということがことが分かりました。
このシミュレーションを基に患者様に説明をさせていただいた結果、前歯6本のみの治療ではなく、より安全で効果的な上顎全体の部分矯正で治療をスタートすることになりました。
また患者様が望んでいた「よりシンプルな矯正治療を受けたい」というご要望にもこたえることが出来る治療方針だと思います。
このように、
- 上あご6本の前歯(social 6)のみの矯正治療も、けっして簡単な矯正治療ではない
- 矯正専門医の知識と最新の技術があってこそ、より良いものにしていくことができる
ことがお分かりいただけたと思います。
矯正治療をお考えの方はより良い結果を得るために、ぜひ矯正の専門家にご相談されることをおすすめ致します。
参考文献:Carlos Alexandre. Aesthetics in Orthodontics: Six horizontal smile lines:Dental Press J. Orthod.131 (15)1, 118-131, 2010