Category Archives: コラム

デジタル矯正システムは、患者様との良好な信頼関係にも貢献します

こんにちは。日本橋はやし矯正歯科、院長の林一夫です。
これまでのコラムで、新しいテクノロジーを用いたデジタル矯正システムの治療が、

  • 治療期間の短縮
  • 治療の品質の向上
  • そして、より安全な矯正治療

などをご提供できることがお分かりいただけたと思います。

 

今回はこれらに加え、治療にあたってなくてはならない「歯科医師と患者様の信頼関係」について、お話させて頂きます。

デジタル矯正システムは、様々な情報を3Dで可視化できるので、患者様へのご説明もとても分かりやすく行えます。

そしてそれが、患者様の様々な不安を払拭し、歯科医師と患者様の良好な信頼関係の構築にも貢献してくれます

 

 

矯正歯科で一層重要な信頼関係

 

矯正歯科治療は比較的長い治療期間が必要になりますので「患者様といかに良い信頼関係を構築するか」ということがとても重要になります。

患者様に「治療の進展状況をきちんと説明できるか」ということはとても大切な要素です。
自分の治療が、初めに説明を受けた治療方針・治療計画の通りに進んでいるのかどうか、十分な説明がないまま治療が行われていると「このままで大丈夫なのか?」と心配になるのは当然のことだと思います。

患者様と普段接していると、デジタル矯正システムは

  • 患者様にも非常にわかりやすく説明できる方法である
  • そのため歯科医師と患者様の円滑なコミュニケーションを促進する

ということを痛感します。

 

 

治療途中の状態の再現と治療後の予測

 

前回のコラムで、デジタル矯正システムで可能になったことをお話しました。

 

  • 歯根吸収のリスクを回避する治療デザイン
  • ブラックトライアングルの予測

これらの情報を患者様と共有する際には、当然治療の経過などの理解を得ることが必要となります。ですので、必然的に患者様に十分なご説明は不可欠となるのです。

そして、デジタル矯正システムで得られる

 

  1. 治療後の歯並びの状態をより正確に予測できる
  2. 治療途中の状態もアニメーションなどで再現できる
  3. 自分の治療の進行具合を比較的正確に把握できる

こういった情報をその都度、患者様と共有しますので、患者様は「今いったいどうなっているの?」という不安を持つことなく、治療に専念して頂けます。

 

前回のコラムもぜひ、併せて参考にしてください。
デジタル矯正システムで可能になったブラックトライアングルの予測

 

 

治療期間の延長に関するご説明

 

治療期間はいろいろな要因で、最初に想定していた治療期間よりも長くなってしまうことがあります。
そのような場合は以下の項目について知って頂く必要があります。

 

  • なぜ治療期間が長くなるのか
  • 目標とする歯並びのどのあたりまで達成されているか
  • あとどれぐらいの移動を行えばよいのか

もちろんこれらを知るには歯科医師の適切な説明が不可欠ですが、デジタル矯正システムであれば、3Dモデルを用いてしっかりと説明することができます。

ですので一般的な矯正歯科治療よりも、良好な関係を保ちながら治療を継続することができると考えています。

 

ひとつの例として、こちらの3Dモデルをご覧下さい。治療前から治療後までの歯の移動を、パーセント表示で段階的に示したものです。

デジタル矯正システムにおけるパーセント予測図1

よく見て頂くとほんの少しずつ、歯が移動していることが分かりますね。

このモデルを用いることで、患者様は「自分が、ゴールまでの治療過程のどの辺りにいるのか」を、視覚で理解して頂けます。

 

計画通りに進んでいるのであればもちろん安心されます。また計画よりも遅くなっている場合でも、こちらを見て頂きながら「歯の移動自体は目標通りに進んでいる」ことを説明し、今後の改善点など3Dモデルをもとにお話することができます。

 

また、この3Dモデルのパーセント表示は、以下に説明するような最適な来院時期の判断に用いることもできます。

 

 

効果的な来院時期を判断

 

一般的な矯正治療では、月1回の通院で治療を進めていくことが多いと思います。

 

しかし、日本橋はやし矯正歯科で用いている「ロボットにより加工されたカスタムワイヤー」は、非常に精度が高いので、2ヶ月以上歯を動かし続けることが可能です。そのため次の来院まで1ヶ月以上間隔を空けることもでき、結果的に患者様の通院の負担を減らすことができます。

 

ただし、歯の移動は必ずしも予想通りに動くとは限りません。ですので2ヶ月以上間隔をあけて通院いただく場合は、おおよその歯の移動を予測した、以下のような3Dモデルの画像を患者様にお渡ししています。

 

移動前:最後の通院の状態です。

percent_prediction_2

 

移動予測:1ヶ月半経過したころの予測です。
percent_prediction_1

1ヶ月半たったころに、予測モデルと実際のお口の中を比較して頂き、

 

  • 予測通りに動いている場合
    問題ありませんので、次の来院は最後の来院の約2ヶ月後となります。
  • 予測モデルとかけ離れている場合
    調整が必要な場合があるので、その時点で来院の予約を取って頂きます。
  • ご自分での判断が難しい場合
    お口の中の写真を携帯のカメラで撮影して送って頂き、それをもとに私が判断します。

こうして来院時期を判断することで

  • 歯が予想通りに動かなかった場合は、早めの対応
  • 予定よりも早く歯が動いたら、より早い段階で次の治療ステップに進む

といったことができます。

デジタル矯正システムのソフトウェアは、タブレット上でも快適に動作します。

デジタル矯正システムのソフトウェアは、タブレット上でも快適に動作します。

 

—————————————-

矯正治療にあたって最も効率よく歯を動かすには、デジタル矯正システムによるこういった情報交換のシステムがとても有効になると考えています。

そしてそれが、患者様と歯科医師とのより良い信頼関係を構築し、患者様自身の治療に対するモチベーションを向上させることができるとても良い技術だと感じます。

ダラスで行われたsuresmile conferenceにて、suresmile lingual applianceのレクチャー

ブラックトライアングルは、デジタル矯正システムで予測可能に

こんにちは。日本橋はやし矯正歯科・院長の林 一夫です。これまで、デジタル矯正システムの治療の品質についてたびたびご説明していますが、今回は治療の品質のなかでも、

治療後に問題になりやすい「ブラックトライアングル」の予測がデジタル矯正システムで可能になったこと

についてお話いたします。

 

 

ブラックトライアングルとは何か

 

「ブラックトライアングル」。普段あまり耳にしない言葉だと思いますが、矯正歯科治療においては非常に重要な課題です。

 

矯正治療が終了して歯並びが整ったときに、骨の量にあわせて歯茎が下に下がってしまい、これが原因で隙間が出現してしまうことがあります。これがブラックトライアングルでです。

 

せっかく見た目にもきれいになったはずなのに、歯と歯の間に隙間が開いてしまう。できれば避けたいことですが、患者様の状態によってはどうしてもそうなってしまうことがあります。
そういう場合は、事前に患者様に良くお話しし、治療の方針を入念に決めて行くことが望ましいです。
ところが、従来の矯正治療では予測が難しいというのが問題を大きくしていました。

 

 

ブラックトライアングルは予測が難しく、トラブルも起きていた

 

予測できなかったり、また仮にある程度予測できたとしても、最終的な歯並びの見た目に関して患者様との認識のギャップは必ず存在します。それを最小限にとどめるのが理想的ですが、大きくなってしまうと、矯正歯科医師と患者様のお互いの信頼関係が損なわれてしまうこともあります。

 

歯列矯正が終わったら、歯と歯の間に隙間がある…「こんなはずじゃなかった」「これなら前の方が良かった」等で、残念ながらトラブルに発展してしまう場合もあり、本当に悲しい、あってはならないことだと私は思っています。

 

そういったことにならないよう、治療前に歯科医師が把握し、患者様に十分にご説明の上ブラックトライアングルの程度をどうするかなどの方針を決めることは、矯正歯科のひとつの大きな課題でもありました。

 

そして、デジタル矯正システムの技術でより正確に予測できるようになりました。これは患者様にも、そして治療側の私たち歯科医師にも、本当に喜ばしいことです。

 

 

日本人に多い凸凹歯(叢生)の矯正は出現しやすい

 

以下に、凸凹(叢生)を例に説明します。叢生の説明と治療方法についてはこちらをご覧下さい。

代表的な不正咬合

 

日本人は、欧米人と比較して凸凹な歯並び(叢生)が多く、当院にも下顎の前歯が凸凹になっている患者様が数多く来院されます。

この凸凹になった歯の矯正治療後の最終的な歯並びで、見た目の問題として考慮しなければならないことのひとつが、先に説明した「ブラック・トライアングル」です。

 

下顎の前歯が凸凹になっている場合、歯の頚部(歯と歯茎の境目あたりの部分を歯頚部と言います)で前歯同士が重なっていることが多く、この部分の骨(歯槽骨)が十分ありません。そのため、どうしても隙間が開いてしまうことになります。ですので

  1. 治療前に3Dモデルを作成し、ブラックトライアングルの出現を予測する
  2. どのような見た目が望ましいかを検討する
  3. ご要望に併せて3Dモデルを作成し、治療デザインに同意して頂く

デジタル矯正システムでは、このように方針が固まったら治療に入ることになります。次に、その実際例で説明していきます。

 

 

シミュレーションで予測し、対応した実例

 

これは、叢生を持つ患者様の診断用の3Dモデル(ヴァーチャルペイシェント:仮想患者)です。

叢生の矯正前の3Dモデル

デジタル矯正システムでは、3Dスキャナーで口腔内を直接スキャンするので、歯肉部分もきれいにモデル化できているのがわかります。このモデルを基に治療のシミュレーションを行いました。

 

シミュレーションの結果がこちらです。

叢生の矯正後の3Dモデル

デジタル矯正システムにより、下顎の前に比較的大きなブラック・トライアングルが出現することが予想されました。このシミュレーション結果を基に、患者様に十分な説明を行い、同意を得た後、治療を開始しました。

 

実際に行った治療後の写真を見てみましょう。

ブラックトライアングルが出現した矯正後の写真

術後のブラック・トライアングルの程度や形態が、シミュレーションの結果とほぼ同じです。

 

治療前にデジタル矯正システムで三次元的に予測されたブラック・トライアングルが、実際に極めて近い予測であったことが分かると思います。

このような比較的大きなブラック・トライアングルが治療後に出現してしまったとしても、前述したように

 

  1. 術前に正確な3Dモデルを作成し、ブラックトライアングルの出現を予測する
  2. どのような見た目が望ましいかを検討する
  3. ご要望に併せて3Dモデルを作成し、治療デザインに同意して頂く

 

このような前提で治療すれば、患者様からの信頼を失うことはありません。もちろん、この隙間の量を小さくする治療をデザインすることも可能です。

矯正治療は単に歯列を治すだけではありません。矯正後に発生する様々な問題を、患者様の生活全体から大局的に見て進めて行くことが何より重要です。

日本橋はやし矯正歯科は、新しい矯正技術と豊富な経験、知識でみなさまのQOL向上のお手伝いをさせて頂きます。

 

ブラックトライアングルについてのご質問やお問い合わせについてもお受けしておりますので、ご興味のある方はこちらからご遠慮なくご連絡くださいね。

お問い合わせ | 日本橋はやし矯正歯科

 

ダラスで行われたsuresmile conferenceにて、suresmile lingual applianceのレクチャー

2014年3月、ダラスで行われたsuresmile conferenceにて、suresmile lingual applianceのレクチャーを行いました。 私の隣は大学の後輩、渋谷矯正歯科の東海林先生です。

 

院長コラムはこちらからご覧下さい。
院長コラム | 日本橋はやし矯正歯科

矯正治療の歯根吸収問題の写真

デジタル矯正システムで矯正治療はより安全になるか?

みなさんこんにちは。日本橋はやし矯正歯科 院長の林 一夫です。

今回は、矯正治療の安全性、特にデジタル矯正システムを用いた場合に、私たちが患者様に提供することが出来るより安全な治療計画・治療デザインについてお話したいと思います。

 

矯正治療には様々な治療の限界やリスクがありますが、デジタル矯正システムで、そのリスクの一部を軽減することは可能です。今回はその具体例を交え、ご説明したいと思います。

 

 

矯正治療におけるリスクについて

 

矯正科医は、患者様にとって最良の治療を行うべく日々努力しています。そして、患者様自身も良い歯並び、調和のとれた笑顔によってもたらされる恩恵を理解し、矯正治療を受けて頂いています。

 

そしてその一方で、矯正歯科治療には治療の限界とリスクがあることも知っていただければと思います。

 

矯正治療を受けるに当たって考えなければならないリスクはいくつか存在していますが、今回は「歯根吸収」を例にとり、「安全な矯正治療の治療デザインとは何か」について考えてみたいと思います。

 

 

歯根吸収とは何か

 

歯根吸収とは「歯根の先端の部分が組織に吸収され、歯根が短くなる」ことを指し、矯正歯科治療でしばしば見られる現象です。

 

「歯根が短くなる=歯が抜けやすくなる」ということではないのですが、吸収されないにこしたことはありませんので、できれば施術前に分かっておきたいリスクです。

 

ですので、その原因についても調査されていますが、残念なことに現在、個々の患者様の歯根吸収の発生頻度や程度を予測する方法がありません

 

なお、

  • 歯根が最も吸収されやすいのは「上顎の前歯部(上の前歯)」
  • 軽度のものを含めると約9割の症例で歯根吸収が発生
  • 吸収の程度は平均で1.5 mm

ということが分かっています。

 

また、ごく稀に重度の歯根吸収を生じることがありますが、それによって歯が抜けてしまうようなことはありませんので過度な不安をお持ちになる必要はないでしょう。

 

 

 

「切歯管」が原因となる上顎前歯部の歯根吸収の実際例

 

こちらは、矯正治療中に歯根吸収が生じた症例のレントゲン写真です。赤い丸の中で、上顎の前歯の歯根が吸収されてしまっていることが分かります。

歯根吸収前の初診時の写真

初診時。まだ歯根吸収は起きていません。

矯正治療中の歯根吸収の写真

治療中。歯根吸収が起きてしまっています。

切歯管には神経や血管が通っているので、比較的硬い骨で形づくられています。そのため歯根が硬い骨からの圧力を受け、歯根吸収に至ってしまった、という流れになります。

 

 

リスクを前もって把握することはできないの?

 

「じゃあ、このリスクは前もって把握することはできないの?」

当然そのような疑問が生じますよね。

 

もちろん「矯正治療には歯根吸収のリスクがある」ということは矯正歯科医であれば誰でも知っています。

しかし「歯がどういう動きをするからどこにどういう歯根吸収のリスクが生じるか」については、歯の根っこの動きまで見ないとわからないのです。

そして従来の矯正治療では歯の根っこの情報まで把握することができませんでした。

 

ですが、3Dデジタル矯正は、専用のスキャナーで顎の骨の情報まで取得し、それをもとに歯と歯の根っこの動きまでをシミュレーションできます。

つまり「どこに歯根吸収のリスクがどのように生じるか」ということを治療前に把握することが可能になったのです。

 

ちなみに、歯根吸収以外の様々なリスクをこの3Dデジタル矯正で前もって把握し、リスクをできるだけ回避するように治療計画を立てます。

 

詳しくは本コラムの後半で記載させていただきましたのでぜひ最後までお読みください。

 

※すべてのリスクを100%なくすことができるというわけではありません。
しかしながら従来の治療法に比べると格段に減らすことが可能になりました。

 

 

3Dデジタル矯正での個別の調整の実際例

 

今回例に挙げる患者様の3Dモデル、横顔とお口の中の写真がこちらになります。赤い矢印は3Dモデルでの切歯管の位置を示しています。

歯根吸収の切歯管の写真

この患者さまの場合、

  • 重度の出っ歯を治す
  • 口元の突出した感じを改善する

という必要がありましたので、可能な限り上顎の前歯を後ろに下げる治療を計画しました。

そしてこの患者さまの3Dモデルを用いて「前歯を出来るだけ後ろに下げる」平均的な歯の傾きを与えた場合のシミュレーションを行ったところ、上顎の歯根か完全に切歯管にぶつかってしまうことが分かりました。

切歯管に歯根が重なっている3D図

切歯管に歯根が完全に重なってしまっています。

歯根が切歯管にぶつかった状態を示したシミュレーションとなり、このように歯を動かしてしまうと、歯根吸収を起こす確率が非常に高くなってしまいます

そこで歯の角度を調節して、切歯管に歯根がぶつからないようにシミュレーションをやり直しました。

切歯管と歯根の距離を適切にした3D

少し前側に矯正の位置を調整することで、切歯管との位置関係を適切に保てています。

このような設計をすることで、少しでも歯根吸収のリスクを減少させることができると考えています。

 

 

デジタル矯正システムは、従来の矯正治療にはできないリスク回避が可能

 

こういった調整が可能なのは、本当にデジタル矯正システムの大きなメリットだと痛感します。

 

というのは、従来の矯正治療での2Dのレントゲン写真だけでは、切歯管と歯根との正確な位置関係を把握することはできないからなのです。

 

また、従来の矯正治療では「2Dのレントゲン写真を参考にして、平均的な位置や角度に歯を配列する」ことを目標として治療を行ってきましたので、このような対応もあまり重要視されてきませんでした。

 

しかし患者様のお口の中の状態は本当にそれぞれで、ひとつとして典型的なものなどありません。

 

もちろん、今回の例は、平均値を目標としたシミュレーションと比較した場合、歯の位置は少し前方になり、歯の傾きはやや直立した状態になってしまいます。

 

しかし、患者様にとってより安全な方法を選択することにより、最も適切な治療デザインで、患者様の歯根吸収のリスクを回避することができました。

 

常に安全で最良な治療を行うには「平均的な位置や角度だけを目標にするのではなく、患者様それぞれの状態を正確に把握して、より柔軟に治療をデザインしなければならない」と思っています。

 

なお、現在主流のストレートワイヤー法による矯正治療は、上顎前歯の歯の傾きは、平均値を基準に設計されています。

  • 正確に個々の患者様の状態を骨の中まで見通すことが出来ない場合
  • 単純に平均値を基準とした治療計画

こういった場合は危険な治療になってしまう可能性がありますので、注意が必要です。

 

————————————————

 

新しいテクノロジーを用いたデジタル矯正治療では

  • 治療期間の短縮
  • 治療の品質の向上

こういったことはもちろんですが、さらに

  • より安全な矯正治療

をご提供できることを、このたびのコラムでお分かりいただけたと思います。

 

このような利点をぜひ分かっていただき、多くの患者様にデジタル矯正システムによる矯正治療を選択していただければと考えています。

suresmile conferenceで受賞した様子の林一夫院長

3Dデジタル矯正の治療の品質について

みなさんこんにちは、日本橋はやし矯正歯科 院長の林 一夫です。

 

前回のコラムでは、3Dデジタル矯正を用いた場合の治療期間の短縮についてお話しました。そこで触れたのが「患者様が最も気にすることのひとつが、治療期間である」ということです。

 

前回の記事はこちら:3Dデジタル矯正による治療期間の短縮について

andy Moles先生のオフィスにて、林一夫院長

アメリカのsuresmile systemのパイオニアドクターであるRandy Moles先生のオフィスにて。(2015年3月、ウィスコンシン州ミルウォーキー)

 

治療期間が短い=治療の品質が高い、という訳ではない

 

早く歯列を綺麗にし、通院や治療を終わらせるというのはもちろん大切なことです。しかしいくら早く治療が終わったとしても、本当にきちんと歯並びが整っていなければ、治療自体の意味がなくなってしまうと思いませんか?

 

気をつけなければならないのは、早い治療が必ずしも品質を担保してくれる訳ではないということなのです。

 

すべての歯科医院や矯正方法が同じ品質を保っているわけではなく、もちろん「早い」からといっても、結果が伴う保障はありませんから、早いというだけで決めてしまうのはとても危険なことだと思います。

そこで今回は、治療期間の短縮が可能な3Dデジタル矯正の治療の品質(どれだけきれいに歯並びが直るのか)について考えてみたいと思います。

3Dデジタル矯正はその治療期間の短縮の場合と同様に、治療の品質に関してもすでにいくつかの報告があります。これらの報告は国際的な学術雑誌に掲載されたものなので、信頼性も高いと思います。

 

どのように治療の品質を評価するのか

 

評価基準については、統一されたものでなくては客観性の乏しいデータになってしまいますので、ここでは現在、世界的に最もよく用いられている矯正治療の質の評価基準「ABO(American Board Orthodontics)スコア」を用いて検証しています。ここでは詳細は割愛しますが、簡単に説明すると

 

重度な凸凹があったり、何かしら歯並びに関連する問題があるとスコアが大きくなる

 

つまり「治療前と治療後でどれぐらいスコアが小さくなるか」で、治療の質を評価することができます。

 

従来の方法と3Dデジタル矯正治療との比較

 

前述したABOスコアを用いて「従来の方法で治療した場合の治療の品質」「3Dデジタル矯正で治療した場合の治療の品質」を比べた3編の学術論文をまとめると、以下の結果になります。

 

1)3Dデジタル矯正が良い治療結果だったところ

 

  • 水平的な歯の位置づけ
  • 捻じれて生えている歯の改善
  • スキマの閉鎖
  • 前歯の前後的な位置づけ
  • 上下の歯の接触状態の改善

2)従来の方法と3Dデジタル矯正で治療結果の品質に違いがなかったところ

 

  • 上顎の12歳臼歯の前後的な位置づけ
  • 上顎の12歳臼歯の上下的な位置づけ
  • 下顎の12歳臼歯の歯根の位置づけ

3)3Dデジタル矯正が悪い治療結果だったところ

 

  • 特になし

 

さらに要約すると以下の結果となっています。

  • 多くの項目で従来の治療と比較して良い治療結果が得られている
  • 従来の方法と比較して治療結果が劣るという結果は見られなかった

このように最新の3Dデジタル矯正は「治療期間の短縮だけでなく、より良い治療結果も得られる」ことがお分かり頂けると思います。

 

 

3Dデジタル矯正には専門の技術力が必要です

 

しかしながら、誰もがただ3Dデジタル矯正を使えば良い治療結果が得られるということではありません。

矯正専門医が、自らの知識を最大限に発揮して、より効率的な治療計画を立てる

ということで、初めて得られる結果であると考えます。

3Dデジタル矯正は、あくまで矯正治療のツールのひとつです。そのよさを発揮するには豊富な矯正治療に関する知識が不可欠であり、その意味では非常に難しいシステムでもあります。

 

私は、3Dデジタル矯正が矯正治療に変革をもたらし、未来の矯正治療を形作る基本のテクノロジーだと信じています。私もさらに研鑽を積み、皆様により良い矯正治療を提供できるように努力を続けて行こうと思います。

suresmile conferenceで受賞した様子の林一夫院長

2012年3月にテキサス州ダラスで行われたsuresmile conferenceにおいて、”Outstanding SureSmile Patient Management”を受賞しました。そのときの授賞式の様子です。大学時の後輩である上地先生も外科矯正に関するアワードを受賞しました。

 

※参考文献:
Sachdeva RC, Aranha SL, et al., Treatment time : Suresmile vs conventional. Orthodontics; 13(1):72-85, 2012.

Alford TJ, Roberts WS, et al., Clinical outcomes for patients finished with the suresmile method compared with conventional fixed orthodontic therapy. Angle Orthod. 81(3):383-388, 2011.

Larson BE, Vaubel CJ, et al., Effectiveness of computer-assisted orthodontic treatment technology to achieve predicted outcomes. Angle Orthod. 83(4):557-562, 2012.

Saxe AK, Louie LJ et al., Efficiency and effectiveness of suresmile. World J Orthod. 11(1):16-22, 2010.

suresmile導入による治療期間短縮のグラフ

3Dデジタル矯正で治療期間が短縮できます

みなさんこんにちは、日本橋はやし矯正歯科 院長の林 一夫です。

今回は私たち日本橋はやし矯正歯科で運用している3Dデジタル矯正“suresmile system”の治療の効果(治療期間の短縮)についてお話したいと思います。

 

「3Dデジタル矯正で、治療期間が短縮できるか?」この問いに対し、治療結果のデータからは「短縮されている」という結論を導き出すことができます。

 

それでは、以下に説明をしていきましょう。

 

 

4万人以上の治療結果が裏付ける短縮時間

 

suresmileを開発したOraMetrix社では、ほぼすべての治療結果に関するデータを蓄積し、以下の結論を独自に導き出しています。

4万人以上の患者における治療結果からsuresmileを用いることによって治療期間を約30%短縮することができる。

短い治療期間はすべての患者様が最も重要視されている項目ですし、これが事実ならばsuresmileを用いた矯正治療はとても良いものだと思います。

しかしながら、独自のデータはどうしてもバイアスがかかることが多いため、その他の論文も引用し、私なりにsuresmileを用いた場合の矯正治療の治療期間の短縮について考察してみたいと思います。

 

 

学術論文を元にして、それぞれの論文の結果をまとめたものです

 

現在、学術論文の検索は、ウェブ上のデータベースで簡単に行うことができます。世界的によく用いられている

  • PubMed
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed
  • Web of Science
    研究機関専用のデータベース。契約しないと閲覧できないサイトなので、ここではURLは伏せさせて頂きます。

これらのサイトで

  1. “suresmile” をキーワードとして検索
  2. その結果、17編の論文が検出された
  3. そこから発表された年が新しい順に4つの論文を選択
  4. さらに私がOraMetrixとの共同研究プロジェクトの際に用いた他大学の学会発表用の研究データを追加

上記の条件で計算しました。こちらの図は、その結果をグラフにまとめたものです。

suresmile導入による治療期間短縮のグラフ

3Dデジタル矯正を用いることによる矯正治療の治療効果(治療期間の短縮)に関する項目をまとめると、次のようになります。

 

最も治療結果が短縮された報告では、従来の矯正治療と比較して約47%短縮された

これは今までの矯正治療で平均的に約2年間の治療期間が必要であったのに対し、suresmileを用いることによって、平均的な治療期間が約1年間に短縮されたということです。

 

すべての報告の患者群で治療期間の短縮が認められ、その範囲は29~47%

各研究で用いられた被験者数は33~89人であり(被験者数は多いほうが良い)、ある程度信頼できる結果であると考えます。


しかしながら

「日本人に多い歯を抜いて行う治療」

「欧米人で多い歯を抜かないで行う治療」

が混在している結果ですので、今後、より詳細な調査・研究を、私を中心とした研究プロジェクトで報告したいと思っています。

 

そしてさらに、suresmileなどの3Dデジタル矯正を適切に用いることにより「歯を抜く必要がある難しい治療でも、確実に治療期間を短縮できるという明確な科学的根拠を示すことができる」と考えています。

 

suresmileカンファレンスでの林 一夫院長

2013年、テキサス州ダラスでの suresmile ドクター・カンファレンス。
久保田先生、上地先生、田上先生、蓮田先生とともに。

 

※参考文献:
Sachdeva RC, Aranha SL, et al., Treatment time : Suresmile vs conventional. Orthodontics; 13(1):72-85, 2012.

Alford TJ, Roberts WS, et al., Clinical outcomes for patients finished with the suresmile method compared with conventional fixed orthodontic therapy. Angle Orthod. 81(3):383-388, 2011.

Larson BE, Vaubel CJ, et al., Effectiveness of computer-assisted orthodontic treatment technology to achieve predicted outcomes. Angle Orthod. 83(4):557-562, 2012.

Saxe AK, Louie LJ et al., Efficiency and effectiveness of suresmile. World J Orthod. 11(1):16-22, 2010.